プログラムについて : 概要

[背景]
現在、地球温暖化などの環境問題に関わる研究は、個々の限定された地域の生態系における二酸化炭素(CO2)吸収機構などの生態プロセスの観測や、リモートセンシング解析によるグローバルスケールでのCO2吸収能のマッピング、物質循環予測、環境変動の影響予測などが主流となっています。本来、これらの研究結果は十分な検証を経て統合されるべきものでありますが、各手法間で対象とする時空間スケールが大きく異なるために相互に検証することが困難であり、解析結果は大きく乖離しているのが現状です。

しかし、近年、衛星センサーの発達がめざましく、得られる情報が飛躍的に増えるとともに時空間の分解能が向上したことにより、生態プロセス観測との対比によるリモートセンシング解析の検証と実証を実現する機が熟しました。さらにその結果を基にしたモデリング解析により、地域・地球スケールの環境問題を統合的に理解することが可能となります。

上記のような現状を踏まえ、本拠点では、いち早く、生態プロセス研究、リモートセンシング解析、気象観測・モデリングの融合・統合を図り、総合的・実践的な科学である「衛星生態学」の創生を目指します。これにより、これまで解析が困難であった異質の機能をもつ系が連続して分布する流域圏や地域生態系の成り立ちを統一的に理解することができるようになります。また、生態系の持つ資源の持続的利用および環境保全に対する現実に即した適確な提言を可能にします。

[目的]
本プログラムの目的は、岐阜大学が目指す学際的な研究・教育体制の確立に則り、生態プロセス研究、リモートセンシング観測、気象観測・モデリングを「衛星生態学」として統合することにより、これまでの個々の地域・地球レベルの現象を対象とした研究では成し得られなかった、生態系現象の統合的な理解のための研究・教育拠点を形成することです。 [概念図]

このような目的を達成するための必須の条件は、(1) 適切な観測の場(フィールド)を持っていること、(2) 手法と技術(リモートセンシング、生態プロセス観測技術)と施設(CO2フラックス・林冠観測タワー)を兼ね備えていること、(3) 解析の検証が容易であることです。この点、本拠点の中核となる流域圏科学研究センターはその条件を備えていると考えられます。

[特色]
本拠点では、流域圏を形成している森林・農耕地・草地・河川・都市等の各生態系を対象に、生態プロセスを解明するとともにリモートセンシング手法を駆使して生態系分布と機能を評価します。衛星生態学手法によってできることは、次のようなことです。すなわち、(1) 衛星情報と生態観測データの同じスケールでの解析、(2) 過去に撮られた衛星画像の利用による時間枠の超越、(3) これまで解析が困難であった異質の機能をもつ系が連続して不均一に分布する流域圏や地域生態系の統一的な理解です。本拠点で構築される研究・教育体制は、より普遍的で適用範囲の広い研究成果をもって当該分野の国際的発展に貢献します。

[重要性]
本拠点の事業推進担当者は国際的な地球環境変動研究プロジェクトである AsiaFlux において、森林生態系の炭素循環機構の解明を生態学的手法およびリモートセンシング観測により進めており、すでに関連分野の先導的な役割を担っています。本拠点は研究面から実際の「衛星生態学」をリードする一方で、日本・アジアのみならず、より広く生態系機能評価に適用できる科学的指針や技術の確立を通じて、現在の複雑化した諸問題、すなわち自然生態系のメカニズム(生物−物質−エネルギー流の相互関係)がもつ複雑系に人間活動の影響が加わったより高度な複雑系の研究を行うとともに、この分野の研究に必要な学際的なセンスを身に着けた科学者を養成します。

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