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常緑針葉樹林(スギ・ヒノキ混交林)における物質循環研究


[スギ・ヒノキが優占する常緑針葉樹林における炭素・水・熱交換量の解析・評価]
常緑針葉樹林は日本、アジア域の主要な生態系であり、また、スギ・ヒノキは日本の森林の30%程度を占める代表的な植生です。このため、スギ・ヒノキが優占する常緑針葉樹林における炭素・水・熱交換量を定量的に推定し、それらの環境応答特性を把握することが、地球環境研究分野において求められています。また、これらの情報は、近年とくに注目されている森林生態系サービス能(炭素固定能、水涵養能、熱緩和能)を把握するための基礎情報となり、環境政策の側面からも重要視されています。そこで、2005年に岐阜県高山市のスギ・ヒノキ林に30mの観測タワーを建設し、長期連続的に森林と大気間の炭素・水・熱交換量の観測を行うことで、実測による炭素・水・熱交換量の把握に努めています。また、炭素・水・熱交換量を再現するビッグリーフモデル(森林を一枚の葉と仮定するモデル)や生態系モデルを利用して、森林の炭素・水・熱交換量の環境応答特性を調査する研究も行っています。下記では、これまで行ったいくつかの研究について紹介します。なお、この観測サイトは、「AsiaFlux: アジア地域の陸域生態系と大気の間の物質(二酸化炭素、水蒸気、メタンなど)、運動量、熱の交換速度(フラックス)の観測研究ネットワーク」に、"TKC site (Takayama evergreen coniferous forest site)"として登録されています。
  • 冷温帯常緑針葉樹林における乾燥年・湿潤年の比較による炭素交換量の解析
    本研究では、スギ・ヒノキが優占する冷温帯常緑針葉樹林における炭素交換量の環境応答についてタワーフラックス観測(渦相関法)データを用いて調査しました。総光合成量および生態系呼吸量は、湿潤年と比較して、乾燥年において少なくとも6%高いにもかかわらず、正味の炭素固定量(純生態系生産量)は,3.3〜3.5 MgC/ha/yrで、両年でほとんど変わりませんでした。両年の年積算総光合成量の差は、主に春の総光合成量の差で説明され、この春先の総光合成量は、(1)春の光合成有効放射量、(2)春の最大光合成能を決定する冬季の気温と融雪のタイミングによって制御されていることが示唆されました。また、本研究サイトのスギ・ヒノキ林は、同様な環境に生育するアジアの他の森林と比較しても高い代謝機能を持つことが明らかになりました。
    Saitoh T.M., Tamagawa I., Muraoka H., Lee N.-Y., Yashiro Y., Koizumi H. (2010) Carbon dioxide exchange in a cool-temperate evergreen coniferous forest over complex topography in Japan during two years with contrasting climates. J Plant Res 123:473-483

  • 冷温帯常緑針葉樹林における夏季蒸発散量−極端気象を含む複数年の観測値による解析−
    森林の蒸発散量は地表面の水・熱・炭素循環と密接にリンクしています。このため、森林の蒸発散量の経年変動とその環境応答特性の解明が、地表面物質循環研究における最も重要なタスクの一つとなっています。本研究では、スギ・ヒノキが優占する常緑針葉樹林における夏季蒸発散量の経年変化について、極端気象に着目して調査しました。猛暑年(2010年)と冷夏年(2009)を比較した結果、大気乾燥度(大気飽差)、純放射といった気象要素に加え、平衡蒸発量や地表面コンダクタンスといった地表面ガス交換特性には有意な差が現れましたが、両年において夏季蒸発散量はほとんど変わりませんでした。また、2005年から2010年のデータを解析した結果、蒸発散量に影響を与える環境因子(気温、降水量、大気乾燥度)および地表面物理パラメータ(地表面ガス交換特性)の経年変化量と比較して、夏季蒸発散量の経年変化量が小さく、夏季蒸発散量が動的平衡を保っていることが明らかとなりました。この夏季蒸散量の動的平衡は、気象条件の変動に対して、森林生態系の制御(主に気孔制御)によって保持されていることが示唆されました。
    Saitoh T.M., Tamagawa I., Muraoka H., and Kondo H. (2013) An analysis of summer evapotranspiration based on multi-year observations including extreme climatic conditions over a cool-temperate evergreen coniferous forest, Takayama, Japan. Hydrological Processes, 27, 3341-3349.

常緑針葉樹林と落葉広葉樹林の比較研究

常緑針葉樹林と落葉広葉樹林の葉群フェノロジーに着目しながら、両生態系の炭素・水交換量の相違性・共通性について研究しています。常緑針葉樹林は年間を通して着葉していますが、冬季の赤変、春から夏にかけての新葉の展開などの葉群フェノロジーが存在します。他方、落葉広葉樹林は、春の展葉、秋の紅葉・落葉といった顕著な葉群フェノロジーが存在します。これらの葉群フェノロジーが、それぞれの生態系の炭素の固定や蒸発散量の季節変化やその絶対量にどのような影響を与えるのか?ということをフィールド観測や生態系モデリングを用いて研究しています。
  • 二つの冷温帯林の炭素収支における樹木フェノロジーの違いの機能的意義について:NCAR/LSMモデルと微気象学的および生態学的調査のデータに基づく検証
    常緑針葉樹林と落葉広葉樹林の炭素交換量の環境応答特性の違いを評価するために、岐阜県にある二つの冷温帯林(スギ・ヒノキ人工林と落葉広葉樹二次林)の炭素収支に対する気象や生態学的機能の敏感度を、観測データとNCAR/LSM(米国国立大気研究センター/陸面モデル)を使って調べました。その結果、常緑針葉樹林では春先に、落葉広葉樹林では夏季に、炭素固定機能が高いことが明らかとなりました。この両生態系における炭素固定機能の相違は、春先の両生態系の葉群フェノロジーの相違に起因していることが示唆されました。また、落葉広葉樹林では生育期間長の変化が年間炭素収支に及ぼす影響が重要であることや、高い密度をもつスギ・ヒノキ人工林の光利用効率(単位入射光あたりの光合成速度)は落葉広葉樹林に比べて顕著に高いことなどが明らかとなりました。
    Saitoh T.M., Nagai S., Yoshino J., Muraoka H., Saigusa N., and Tamagawa I. (2012) Functional consequences of differences in canopy phenology for the carbon budgets of two cool-temperate forest types: simulations using the NCAR/LSM model and validation using tower flux and biometric data. Eurasian Journal of Forest Research. 15(1), 19-30.

  • デジタルカメラ画像を用いた各種植生指数による落葉広葉樹林と常緑針葉樹林の光合成ポテンシャルの評価
    本研究では、デジタルカメラ画像の色情報から3種類の植生指標を算出し、落葉広葉樹林と常緑針葉樹林の光合成ポテンシャル(各季節の最大光合成能力)を推定する手法を開発し、その有効性を検証した。その結果、(1)植生指標と光合成ポテンシャルの関係にはヒステリシスがあることが分かり、(2)展葉期・落葉期のように季節を区切ることで、光合成ポテンシャルを植生指標によって良好に再現できることが明らかとなった。本研究の結果は、設置が容易で安価なデジタルカメラの画像を多点で収集することにより、光合成ポテンシャルの広域情報を取得可能であることを示した。
    Saitoh T.M., Nagai S, Saigusa N, Kobayashi H., Suzuki R., Nasahara K.N., and Muraoka H. (2012) Assessing the use of camera-based indices for characterizing canopy phenology in relation to gross primary production in a deciduous broad-leaved and an evergreen coniferous forest in Japan. Ecological Informatics, 11, 45-54.

(2014.10.29 updated)