ホイカーケンの森と植物
はじめに
ホイカーケンはタイで唯一の世界自然遺産に登録された保護区である(*1)。保護区の中に、熱帯林の動態の観測を目的とした50haの長期観測プロットが設置されている。このプロットは、米国スミソニアン熱帯研究所(*2)と日本の国立環境研究所(*3)、そして現地カウンターパートとしてタイ王立林野局(*4)が共同で運営管理している。minacoさん(仮名)が炭素循環について調べているサイトはこの50haプロットのなかにある。
今回、私サワダは、minacoさん(仮名)の炭素循環研究のお手伝い、ということでホイカーケンを訪ねた。調査中にきょろきょろして感じたこと、調査のない午後に散歩したときに見たものなどをまとめておく。といっても、雑感の域を出ない。事前に十分な予習をしないまま現地に入ったため、見るべきポイントを見落としている可能性があるのと、植物の種の同定なんてとうていおぼつかなかったから。
ホイカーケンの森は雨季と乾季がはっきりとした場所に成立する「熱帯季節林」である。今回の訪問時は乾季だったので、ここで述べることは乾季の森の印象である。
森林の構造など
常緑樹と落葉樹(乾季に落葉する)の混交林。
林高は40m以上、もしかすると50mくらいありそう(目測)。さすが熱帯林っていう高さ。階層が発達していて、いろいろな高さに葉群がある。
高木のDBHは1mを超えるようなものもたまにあるけど、多くは50cmちょいくらい。樹高のわりに細い感じがする。過去に(数十年前?)山火事があったということが関係しているかもしれない。火事は自然発火だという。
林床の草本層は2mくらいの高さがあり、植被率は60%くらいはある感じだ。ショウガの類や、トゲの多い藤本が目立つ。
立ったまま黒焦げになっている高木が稀にある(写真右)。過去の山火事の燃え残りなのか?落雷でもあったのか?
明るくて乾いた森
乾季だからか、林床を歩いていて蒸した感じはまったくしない。乾いた風が吹いていて涼しく感じるくらい。土壌や堆積している落葉は乾いている。土壌水分含量は5%強くらいと低い。
林床はどこでも明るい。林床まで直接入ってくる光が多い。どうしてそうなのか、樹冠を見上げてみると理由がわかる。(1)落葉している木がある、(2)展葉しているのに、樹冠がスカスカの木がある(写真左・中)、(3)葉をだらりんと下げて、光をうけとめないような形になってる木がある(写真右)、こういう理由で林床が明るい。おそらく雨季になるとどのタイプの木も密度の高い葉群をもつようになるだろう。
つまり、林床はいま、光があるけど水が少ない状態。それで思ったのだが、この時期に特化した植物は無いだろうか。熱帯季節林の林床植生の季節性(種組成、展葉・開花・結実などのフェノロジー、生理生態)にちょこっと興味がでてきた。
着生植物
着生植物があちこちの木についている。いまは空中湿度が低いと思うが、雨季の湿度に依存しているのだろうか。
ビカクシダの仲間Platycerium sp.(写真左)、カザリシダの仲間と思われるものAglaomorpha sp.?(写真中)、写真はとってないけれど、他にもなんだかわからない着生シダを見た。いずれも樹幹に付き、全体にロウト型。まるで天然のリタートラップのよう。自分の根元に落葉や水をたまりやすくしているようだ。とくにカザリシダの仲間と思われるシダでは、葉の先のほうは羽状に深裂しているのに、葉の基部では幅広い翼状で切れ込みがなく、隣り合う葉との間に隙間がない。トラップしたリターをうまく保持している。
着生ランが何種類かあった。同定はしていない。花を咲かせているもの(写真右)とないものがあった。ほとんどの着生ランは葉が厚く、もしかすると貯水性があるかもしれない。
樹木
板根の木(写真左)、絞め殺しの木(写真右)が目立つ。
植物の同定はほとんどしなかったので、分かった樹種は少ない。出発前に図鑑(*)を入手していたら、もっと「同定しよう」って気になっただろう。海外にいくときは、科名のラテン語−日本語の対応表を持っていくといいと思う。現地で買った図鑑の使いやすさが増すはずだ。科名のラテン名くらいおぼえとけっていうツッコミはご遠慮ください。
おちていた果実や、ブットさんのとった標本から同定できた樹種は以下のもの。
- Harpullia arborea (Blanco) Radlk. (SAPINDACEAE) ムクロジ科 果実があちこちにおちていた。優占種のひとつだと聞いたような気がする。
- Dipterocarpus alatus Roxb. ex G. Don (DIPTEROCARPACEAE) フタバガキ科 果実があちこちにおちていた。
- Tetrameles nudiflora R. Br. ex Benn. (DATISCACEAE) ダティスカ科 落葉していて、なおかつ花が咲いていた。花といっても地味。
- Cassia fistula L. ? (LEGUMINOSAE) マメ科 ながーい(30cm〜40cmくらい)葉巻みたいな鞘が落ちていた。鞘の中は小部屋に分かれているが、小部屋の仕切りの部分が黒くてべたべたしてて納豆臭い。種名はあってるか微妙。
- Macaranga gigantea (Rchb. & Zoll.) Mull.-Arg.? (EUPHORBIACEAE) トウダイグサ科 M. denticulataかも。
その他
種が多様であるというわりには咲いている花が少ないように思う。乾季に咲く花が少ないのだろうか。といっても、ちゃんと枠を張って調査したわけじゃないし、雨季の森をみていないから、ほんとうのところはわからない。
かわいい花の低木。林道沿いのやや明るいところ。樹高は3mくらいだったか。葉腋に7〜8個くらいの花がつくが開花しているのはひとつだけであとはつぼんでいる。つぼみにはアリがたかっている。アリはつぼみで何をしているのだろう。植物とアリはどういう関係だろう。
地表付近で咲く花。葉は無い。腐生か寄生植物らしい。別々の場所で計2個体見た。どっちも木の根元にあった。
* バンコクで買った図鑑は、これ↓。850バーツ(約2500円)でした。
A Field Guide to Forest Trees of Northern Thailand
Simon Gardner, Pindar Sidisunthorn, Vilaiwan Anusarnsunthorn (2000)
裏表紙の口上によると「430種について詳しい解説、さらに450種に関する記述。タイ北部の在来樹種の75%以上をカバー。1600以上の写真と330の線画。大きな科や属には同定のカギを示した。難しいグループには検索表をつけた。ハビタットと花期・果期、地方名と利用方法などを示した」。
さりげなくLINK
*1 Thung Yai - Huai Kha Khaeng Wildlife Sanctuary (英語)
*2 米国スミソニアン熱帯研究所 (英語)
*3 国立環境研究所
*4 タイ王立林野局 (英語)
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