植物にとっての光環境をどのように測るか

「第32回種生物学シンポジウム要旨 2001年2月」


はじめに
植物の成長や生死は,個葉の光合成反応を介して生育場所の光環境と密接にかかわっている.植物が置かれた光環境を知るためには,照度計や光量子センサーによる測定,魚眼レンズとカメラで撮影した全天空写真の解析,日射量に応じて変色するフィルムの設置など様々な方法がある(Pearcy 1989).

1 センサーによる測定
光を測るためのセンサーには,照度計,光量子センサー,日射センサーの3種類があり,データロガーに接続して数値を読み記録する.照度は光の強さ(lux),光量子センサーは光合成有効波長域の光量子密度(umol photons m-2 s-1),日射センサーは単位面積あたりのエネルギー量(W m-2;1 W = 1 J s-1)を測る.これらのセンサーは互いに強い相関関係を示すが,波長感度特性が異なる.

植物の光合成にとっての光環境の測定には,光合成有効波長域に感度をもった光量子センサーが最適である.しかし上述したように,特定の地点に到達する光量は時間的変動が大きいので,ある一時点において測定した光量の絶対値は光環境の指標にはならない.たまたま測定した瞬間だけ,その場に直射光が入ったかもしれないし,逆に周囲の枝葉や幹の陰になっているかもしれないからだ.光量子密度の絶対値の連続測定は,葉が一日に経験する光量子密度の値の範囲や日変化パターン(サンフレックの強さや頻度など),日積算受光量を知るのに有効である.

多数の個体や個葉あるいは広範囲な調査面積を対象とした各ミクロサイトの光資源量の把握や比較,光条件の季節変化の把握には,「相対光量子密度」と呼ばれる指標が有効である.これは群落内のある場所に到達する光量子密度の瞬間値あるいは積算値(I)を,全く被陰されない場所での光量子密度の瞬間値あるいは積算値(Io)に対する相対値として表すものである.光量子密度の測定は,調査対象とする位置と被陰されない対照となるうる場所(例えば開けた林外,あるいは林冠上)で同時に行う.瞬間値による評価は多点測定を短時間内で済ませることができるが,測定をした時刻や雲の厚さによって,誤差が生じることがある.一方,積算値による評価は,雲の厚さなどの天候による誤差は小さくなるものの,測定箇所の数だけセンサーが必要になる.

相対光量子密度は,古くから光環境の指標に使われていた「相対照度」と測定方法は同じである.筆者らが様々なタイプの群落下で相対照度と相対光量子密度を同時に測ったところ,上層の葉群による被陰が強くて赤色光の割合が低い場所ほど,相対照度の値が相対光量子密度に比べて高いことがわかった(Muraoka et al. 2001).例えば林冠が粗な明るい林床では5%程度,林冠が密な暗い林床では10%程度,相対照度が相対光量子密度を上回る.このように「相対光量子密度」と「相対照度」とでは,異なる波長感度特性を持つセンサーを使っているので,測定手順は似ていても結果は同じではない.ただし両者間の相関は非常に強いので,大まかな換算が可能である.

相対光量子密度の測定の注意点を挙げる.いくら林内外で同時に測っているからと言っても,入射光量の変わりやすい晴天日に一地点につき瞬間値を1度だけ測るというのでは誤差が非常に大きくなる.なぜならば,測った瞬間だけそこにたまたまサンフレックが当たっていたり陰になっていたら,測った時刻によって,そのミクロサイトは明るかったり暗かったりすることになるからだ.各地点にセンサーを据え付けて連続的に測定し,日積算光量として相対値を出すのなら問題はない.連続測定ができない場合には,全天からほぼ均一に光が照射される散乱光条件である曇天日か,太陽高度の低い早朝や夕方に行う.なぜならば散乱光条件下では光量子密度の絶対値の時間的変動は比較的小さくなるし,植被(林冠)下の特定の地点で測定される散乱光の光量子密度は,林冠の全ての空隙から入射する散乱光やその地点で測定されうる直射光を含む光量の日積算値と強く相関するからだ(Tang et al. 1988).散乱光条件下で相対光量子密度を指標とすれば,多数の地点の光条件を短時間で把握することが可能になる.散乱光条件の目安としては,輪郭がはっきりした影ができない状態が良い.測定の際には,測定者がセンサーの陰にならないように注意する.1m程度の棒の先にセンサーを固定するなどしてセンサーから測定者の身体を十分に離し,かつセンサーよりも低い位置まで屈むようにする.

2 全天空写真による推定
ある特定の受光面にどれだけの量の光が到達するかは,その受光面を覆う「フィルター」となる周囲や上部の植生の性質と光源に依存する.全天空写真を用いた光環境の測定(Chazdon & Field 1987)は,近年,日本でも急速に拡大している.

調査対象とする葉や個体の直上で,視野角180度の魚眼レンズを用いて林冠の写真を撮る.レンズは水準器を参照しながら真上に向ける.方位を示す印をレンズの視野内に入れておく.撮影した写真には枝葉のある部分と空が見える部分(林冠の空隙)が写る.この画像をピクセル単位で白黒に2値化して解析する.画像では,枝葉のある部分,すなわち太陽からの光を遮る部分が黒色部,林冠の空隙のように光が入ってくる部分が白色部となる.空と枝葉の境界部分(灰色になる)の見極めが直射光や散乱光の推定値に大きく影響するので,その判断は元の写真と十分に見比べながら行う.空の部分と植物によって遮られた部分を区別するための閾値を決定する際には,ピクセルの輝度分布(画像解析ソフトを利用)を参考にするとよい.白黒2値化に影響する元の写真の鮮明さは,撮影時の露出や天候の影響を受ける.晴れた日に撮影すると太陽のある方向は露出オーバーになるので,実際の白色部以上に白い部分として写真に残る.したがって最適な画像を得るためには,曇天日に露出を変えて3枚程度撮影することが望ましい.

全天写真を解析することによって,撮影地点の光環境を評価することができる.林冠上の光量や太陽の移動を仮想的に組み合わせれば,撮影地点に到達する直達光や散乱光の光量子密度を推定することができる.入射光量の方向依存性を知りたければ,写真を160−200の区画(セル.方位角と天頂角の組み合わせによって番地付けする)に分けて,それぞれのセルからの入射光量を推定することもできる.林冠構造と林床への入射光量との関係を解析したり,植物の地上部の三次元構造(枝葉の空間分布)との関係を解析する(Takenaka et al. 1998; Muraoka et al. 1998)のに有効だ.

3 感光フィルムによる測定
光によって変色(感光)するフィルムを測定点に設置し,一定時間(2-14日)後に回収して,変色度合いから日射量を推定する方法である(例えば大成化工株式会社の"OptLeaf").個々の葉が置かれた光微環境は,葉や茎の間の相互被陰や,葉の傾きにも依存する.フィルムを葉面に貼り付けることで,葉が経験する光環境を直接測定することができる.ただしいくつかの注意点がある.フィルムの変色度合いを日射量に換算するので,色が変わりにくい暗い林床などでは測定精度は低い.また,このフィルムが赤色光ではなく緑色光を主に捉えていることも植被下での測定精度を下げる原因になる.測定中の温度が変色度合いに影響を及ぼすことも忘れてはならない.感光フィルム法は,入射光量の時間的変動が小さい場所に限定すれば,複数のミクロサイト間の日射量の相対的な比較をするのには簡便な方法である.

4 光質の測定
植物の地上部形態を調べるためには「光質」に着目する必要も生じる.なぜならば植物の形態形成は周囲から届く光の質に影響を受けるからだ(Smith 1982).光質を知るためには,波長別の光量子密度を測る方法と,植物が光質を感知するファイトクロームの吸光ピークである赤色光(660 nm)と赤外光(730 nm)の波長の光量子密度を測定する方法がある.

5 目的に応じた方法の選択
以上のように,光環境の測定にもいろいろな方法とそれに応じた条件設定がある.植物にとっての光環境を測るのであれば,「何を評価するのか」とか「どのようなスケールの反応に着目するのか.データをどのような解析に用いるのか」といった問題設定に応じた方法を選ぶ.

植物個体の生死や成長速度と光環境との関係を調べたい場合には,光量子センサーを使って散乱光条件下で各個体直上での相対光量子密度を得るのが適している.群落内のミクロサイトの光条件の空間分布やその季節変化を調べる際には,光量子センサーや全天空写真を使って相対光量子密度を求めたり,日積算光量子密度を測定あるいは推定するのが適している.葉の向きとその受光量との関係を調べるためには,軽量なフィルムを用いれば大まかな傾向を捉えることができるし,さらに詳細な解析のためには,計算機を使えば全天空写真を使って方位別の入射光量を推定することができる.植物の受光体制について調べるにはこの方法が最適だ.個葉や個体の光合成量を推定するのであれば,対象とするミクロサイトに光量子センサーを据え付けて連続測定を行う方法が最適だ.あるいは,散乱光条件下の相対光量子密度を測っておいて,別途,開けた林外で様々な天候条件で連続測定した光量子密度の日変化を乗じることで,対象とするミクロサイトに到達する光量子密度の日変化を推測することもできる.ただしこの方法はサンフレックを正確に捉えることはできない.

おわりに
ここで挙げた測定方法と研究内容の例は演者あるいはその共同研究者の経験に基づいているが,他にも様々な展開があるはずだ。植物の生活史に含まれるどのステージも,多かれ少なかれ光合成生産の制限を受けている。植物の振る舞いの理解を深めるためには,それがどんな光環境の下で暮らしているかを知ることが大切なヒントになるかも知れない。


参考文献
Chazdon R.L. & Field C.B. (1987) Photographic estiamtion of photosynthetically active radiation: evaluation of a computerized technique. Oecologia 73: 525-532

Hart J.W. (1988) Light and plant growth. Unwin Hyman, London

Muraoka H., Takenaka A., Tang Y., Koizumi H. & Washitani I. (1998) Flexible leaf orientations of Arisaema heterophyllum maximize light capture in a forest understorey and avoid excess irradiance at a deforested site. Annals of Botany 82, 297-307.

Muraoka H., Hirota H., Matsumoto J., Nishimura S., Tang Y., Koizumi H. and Washitani I. (2001) On the convertibility of different light availability indices, relative illuminance and relative photon flux density. Functional Ecology 15: 798-803

Nishimura S., Koizumi H. & Tang Y. (1998) Spatial and temporal variation in photon flux density on rice (Oryza sativa L.) leaf surface. Plant Production Science 1:30-36

Pearcy R.W. (1989) radiation and light measurements. In: Plant physiological ecology. Field methods and instrumentation. (eds. R.W. Pearcy, J. Ehleringer, H.A. Mooney and P.W. Rundel), Chapman and Hall, London

Smith H. (1982) Light quality, photoreception, and plant strategy. Annual Review of Plant Physiology 33:481-518

Takenaka A, Inui Y. & Osawa A. 1998. Measurement of three-dimensional structure of plants with a simple device and estimation of light capture of individual leaves. Functional Ecology 12:159-165

Tang Y. (1997) Light. In: Plant ecophysiology (ed. M.N.V. Prasad), John Wiley & Sons, Inc.


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