小清水原生花園における植生の保全に関する研究 VII 火入れ後のハマナスの生長と開花

日本生態学会第46回大会(松本,1999)

津田 智 (岐阜大学流域環境研究センター)
冨士田裕子(北北海道大学農学部附属植物園)
西坂公仁子(パシフィックコンサルタンツ)

 小清水原生花園はオホーツク海と涛沸湖にはさまれた長さ約7kmの砂州上に発達しており,花の名所として古くから知られてきた.しかし,現在はナガハグサやオオウシノケグサなどの外来牧草の優占度が高くなり,相対的にハマナスやエゾスカシユリなどの原生花園を特徴づける植物が衰退してきている.原生花園景観の復元や植生の維持管理の手法として,火入れが有効かどうかを明らかにするために1990年から火入れ実験をおこなっている.
 本研究ではハマナスを対象に, 火入れの実施が個体数(密度)の増減にどのような影響を与えるかについて調べることを目的とした.また,火入れがハマナスの開花におよぼす影響についてもあわせて検討した.
 原生花園内のハマナスが優占する場所に5×5mの調査区を設置した.方形区内のハマナスの全シュートにラベルをつけ,長さを測定した.火入れは1992年5月11日に実施した.翌1993年から1997年まで(1996年を除く),それぞれ前の年度中に出現した新個体にラベルをつけると同時に,シュート長の測定と果実またはその痕跡の有無を調査した.
 火入れ後に出現したハマナスのシュートは,火入れ前の個体から栄養繁殖したものだった.5×5mの調査区内に火入れ前にあった223個体(8.92個体/F)は,火入れによりすべて焼死した.火入れ後の1992年中には443個体が出現し,1993年にはさらに増加して582個体となったが,1994年には505個体に減少し,さらに1996年には火入れ前の水準と同程度の291個体まで減少した.
 火入れ前の平均シュート長は32.0cmだったが,火入れ後には24.0cmとなり,火入れ以前よりも短くなる傾向にあった.平均シュート長は時間経過とともに増加し,火入れから3年後には火入れ前の水準まで回復した.生長はさらに続き,5年後の1996年には平均37.6cmに達した.
火入れ直後の1992年,および1993年,1994年,1996年中に結実したハマナス個体の割合は,それぞれ7.0%,13.4%,19.6%,20.6%だった.結実した個体は結実しなかった個体よりも平均シュート長が大きく,より大きな個体が花を着けることが明らかとなった.


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