「草原の火入れと植生」

日本生態学会中部地区講演会(岐阜,2004)

津田 智(岐阜大学流域圏科学研究センター)

 かつては日本各地で見られた半自然草原だが,現在は過疎化に伴う管理放棄により急激に減少しつつある.火入れによって再生・維持・管理される半自然草原を対象に,植生(構造や機能)が火入れ後に再生するメカニズムについての研究をおこなっている.火入れが非常にばらつきの大きな環境要因であるためにまとまった話を作るのは難しいが,これまで採りためたデータを紹介しながら火入れが草原植生に与える影響についての話題を提供する. 
 ひとくちに半自然草原といっても植生のタイプはさまざまで,もっとも普通にみられるススキ草原のほか,シバ草原やヨシ原もある.全国各地に点在する半自然草原,とくに火入れがおこなわれている草原で,チャンスがあれば火入れ温度と燃料量の測定をおこなっている.まだ,数えるほどの事例しかないが,一定の傾向は見えてきた.燃料の量とその垂直分布により,およその燃焼温度が決まっているようだ.温度は植物体の生死や種子の発芽を通じて植生の再生に影響を与えており,火入れ温度の把握は重要である.たとえば燃料量の多い,ヨシ群落やオギ群落ではかなりの高温になるし,逆に燃料量の少ない防火帯やシバ群落では温度上昇が小さい.また,いくら高温になっても草原の火入れでは地下部の温度上昇は小さいなどのことが明らかになりつつある.
 10年ほど前から火入れを利用して植生の管理をおこない始めた北海道小清水町の小清水原生花園での取り組みを紹介する.かつては蒸気機関車から放出される火の粉により野火が多発していたし,牛馬の放牧もおこなわれていたために百花繚乱の景観となっていた原生花園が,蒸気機関車の廃止と公園の指定とにより,しだいに牧草類の繁茂する景観へと変質していった.現在は蒸気機関車の火の粉の代わりに火入れをおこない,人為的に草原を攪乱している.5月上旬に火入れを実施することにより,その時期に生育し始めている外来牧草種にだけダメージを与え,また,火入れによりリターを減らして在来種の発芽床を確保するとの目的で火入れを実施している.



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