小清水原生花園


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■ 研究の概要

小面積の火入れ実験

 1990年に辻井達一先生に北海道からの委託があり,最初の火入れ実験が実施されました.その時の面積はわずか10m×10mで,北海道からの委託が終了したその後の2年間は調査項目の増加とともに火入れ面積も増加し,1991年は20m×20m,1992年は20m×60mの実験区を設置してさまざまなデータを収集しました.

野焼き事業

 1990年から1992年の3年間の火入れ実験の結果を受け,1993年からは本格的な事業野焼きが実施されることになりました.事業主体は網走国定公園の管理者である北海道網走支庁ですが,網走支庁,小清水町などの行政,国道管理者の北海道開発局,JR北海道,森林管理署(営林署)などの関係諸機関が意見交換できる場として「網走国定公園小清水原生花園風景回復対策協議会」が組織されています.われわれの研究チームからも冨士田と津田が学識経験者という立場で協議会に参加しており,試験研究も現在に至るまで継続して実施されています.
 以下に,研究項目ごとに簡単に説明します.

火入れ時の温度測定(担当:津田)

 草原の火入れは山火事などに比べれば温度が低いだろうことは簡単に想像できます.しかしながら,冬枯れている時期の火入れとは言え,草原の植生に火が着くわけですから,環境に対して何らかの影響は与えているはずです.小清水原生花園にはカラフトキリギリスと言うこの地域に独特の希少昆虫が生息していることが知られており,冬枯れの時期であっても地下に産卵されている卵にダメージを与えることが懸念されていました.そのような野焼きに対する疑問を解決するために1990年の実験野焼きの開始当初から火入れ温度の測定をおこなっています.
 測定は1地点について垂直的に6カ所の異なる高さに熱電対センサーを設置し(地上100cm,30cm,地表(0cm),地下2cm,5cm,10cm),電気的に数秒間隔で自動記録しています.実験を開始した1990年頃は記録装置やセンサーが今ほど手軽で高性能ではなかったので,仕掛けが大がかりな割には測定間隔が長くなっていたりしましたが,現在はおおむね2秒間隔のデータが手軽に取れるようになりました.カラフトキリギリスの卵が産み落とされている地下数センチの位置では温度がほとんど上昇しないことが確かめられています.

燃料・リターの蓄積(担当:津田)

 火入れ温度の上昇には燃料の蓄積量が強く影響していると考えられます.そこで火入れの時にどのくらいの燃料が燃焼したのかを推定するために,火入れに先立って燃料の量を測定し,火入れ後にはそれらの焼け残った量を測定しました.つまり火入れ前の燃料の量から焼け残った量を差し引くと,その年の火入れでどのくらいの燃料が燃焼したかが推定できるわけです.草原の火入れの場合,燃料のほとんど全てが植物に由来する有機物です.したがって,実際に測定したのは,火入れ前の植物体とリター(落葉・落枝)の量,およびそれらが焼け残った量と言うことになります.
 リターは火入れにおける燃料の大半を占めるという意味で重要なだけでなく,植物が芽生えるのを邪魔するという意味でも重要です.リターが厚く堆積してしまうと植物の種子が発芽しても生長する前に死亡してしまうケースが知られています.小清水原生花園の場合も,リターの蓄積が大きくなると種子発芽によって出現するような植物の量が減っていくことが予想されたので,火入れ後のリター量の変化を調べています.

火入れ後の地温の変化(担当:冨士田)

 火入れ時の温度測定により,野焼きではあまり高温にならないことがわかったので,もしかすると火入れ後の直射日光による地面の温度上昇の方が強い影響を与えているのではないかと考え,火入れ直後から積雪直前までの地温の変化を測定しています.野焼き後には多量の炭が地表面に供給され,しかも断熱材のような働きをしていたリター(枯れ草)が焼失しているので,直射日光が当たったときには相当の高温になり,逆に夜間は放射冷却によって火を入れていない場所よりも低温になるだろうと予想されました.つまり,火を入れた場所の方が日中は高温になり,夜間は低温になることで地温の日格差が拡大すると予想したわけです.このような環境変化は,ある種の種子の発芽を促進する効果を持っていることが知られており,野焼きを実施した場所では種子発芽個体が増加する可能性を持っています.

野焼き後の植生の構造(担当:津田)

 草原を構成する多くの草本植物は根や地下茎などの地下部分または種子の状態で冬を過ごしています.火入れをおこなうと地表近くの根,茎,芽,種子などの植物体は一時的に多少の高温にさらされますし,その後の直射日光の照射によってもある程度の高温と大きな日格差の温度環境のもとにさらされることになります.そのような温度環境にさらされたときに,植生の構造がどのように変化したかを調べるために,野焼きを実施した場所と,実施していない場所とで植生の調査をおこなっています.通常の植生調査では「被度」の測定が一般的ですが,野焼きにより埋土種子の発芽が促進されたかどうかを明らかにすることが重要な目的となっているため,小清水では栄養繁殖と種子発芽を区別して「個体数(密度)」の測定を実施しています.

火入れと放牧による植生の変化(担当:安島)

 外来牧草を減らして元来の植生を復元し,維持する方策を探るために,実験的に火入れと放牧をおこないました.1994年5月に火入れをおこなった場所とおこなわなかった場所を柵で囲い,1994年と1995年の夏にウマを放牧をしました.放牧の期間は両年ともウマが柵内の草を食べ尽くすまでとし,植生調査は1995年と1996年の7月に行いました.
 2年連続で火入れや放牧を行った区画ではシロツメクサ,オオアワガエリ,セイヨウタンポポなどの帰化植物が他より高い頻度でみられました.帰化植物は一般に,撹乱跡地に素早く侵入して繁殖することができるといわれています.本研究でみられた帰化植物も2年連続の処理により裸地化した場所に侵入してきたと考えられます.
 ナガハグサは全調査地点で出現しましたが,優占度は区画によって異なっていました.放牧を行った区画では、ナガハグサの優占度は他より高い傾向がありました.過去の研究例にも,ナガハグサはウマやバイソンの放牧により増加するという報告があります.したがって本研究でも,ナガハグサは強度の放牧により優占度が高くなったと考えられます.一方,火入れに対しては,ナガハグサは火入れ後に減少するという報告があります.しかし本研究では,火入れのみを行った区画のナガハグサの優占度は,無処理区と同様でした.

ネナシカズラ種子の発芽特性(担当:冨士田)

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埋土種子集団(担当:安島)

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小面積の火入れ実験(牧場)(担当:津田)

 国道よりも濤沸湖側は湿地になっていて,町営の牧場として利用されています.夏の期間だけ馬(道産子)数十頭が放牧されています.馬の飼い主さんたちからの要望として「最近は野草を馬があまり喰わなくなっているので,牧場側も野焼きをして草質をよくしてほしい」というのが数年前から出てきました.火を入れたら草質がよくなるかどうかは,今の研究メンバーでは調べられないのですが,火を入れることで植生がどのように変化するかなどのことはわかります.そこで2006年から小面積の実験野焼きをおこなっています.2006年は20×40mの実験区を4カ所,2007年は20×20mの実験区を2カ所に設置して火を入れています.それぞれの実験区では夏に植生の調査をおこない,火入れが植生に与える影響について調べています.




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