プログラムについて : 挨拶

[総括 2009.3]


拠点リーダー : 流域圏科学研究センター 教授 村岡 裕由

21世紀COEプログラム「衛星生態学創生拠点」は,陸上生態系の広域・時系列観測に優れた衛星リモートセンシングと生態系機能の詳細な機構解明に優れた生態学的・微気象学的プロセス研究,そして生態系レベルでの機能を総合的に観測・解析する微気象学とモデリング解析を融合して『衛星生態学』を創生し,ますます複雑化する環境問題に対応する統合的研究教育体制を構築することを目指してきました。本拠点は「リモートセンシング研究グループ」「生態プロセス研究グループ」「モデリング解析・評価グループ」で構成されており,各分野の視点での研究と,分野融合的な視点での研究および若手研究者の育成に取り組んできました。各研究分野研究教育は,長期・複合的なアプローチにより森林生態系の炭素循環研究の拠点となっている「高山サイト」周辺の大八賀川流域エリアにおいて展開されてきました。各グループの成果についてはグループリーダーからの報告に譲り,本欄では拠点全体としての活動について主要な成果を述べます。

本プログラムでは,大学院生は事業推進担当者の下で教育・研究指導を受けてきました。またポスドク研究員は拠点リーダーが率いる「統合解析チーム」を成して「衛星生態学モデル」を構築しました。分野融合的なアプローチによる研究成果としては,(1)山岳域生態系機能解析のための高解像度の衛星−気象−生態系結合モデル『衛星生態学モデル』と森林簿データによる森林の炭素固定量評価精度のヘクタール単位での比較検討,(2)植生のスペクトルデータの植物生理生態学的な実験検証による新たな生態系光合成モデルの開発,(3)タワーでのCO2フラックス観測と森林スペクトル観測データの統合による衛星植生指標の時間的変動要因の生理生態学的解釈などが挙げられます。また(4)生態系機能の総合的な衛星観測手法の実現を目指して,多様な森林サイトでの炭素吸収と放出の相関検出により地上の生態プロセス情報から土壌圏プロセスを予測する知見の探求にも挑んできました。

本21世紀COEプログラムの拠点形成活動の当初目標は特に若手研究者や大学院生の共同研究の推進と分野融合の理念の醸成という形で達成されたと考えています。『衛星生態学』は局地から流域,全国土に至るスケールでの生態系プロセス研究と衛星観測の融合を実現する視点として国内の研究コミュニティに浸透し始め,当拠点で学んだ若手研究者は日本長期生態学研究ネットワークJaLTERや日本CO2フラックス観測ネットワークJapanFluxなどの研究ネットワークの連携強化に寄与しています。これは,本拠点形成計画における期待以上の成果と言えるでしょう。 本COEでは,若手主導によるフレキシブルな共同研究体制を整備し,教育・研究・人材交流を推進するための人的ネットワークの国際的展開も目指してきました。その一環として,バイロイト大学(ドイツ)とともに山岳域生態系の物質循環研究〈日本学術振興会・二国間交流事業〉を,また高麗大学(韓国)と北京大学(中国)とともに東アジアの炭素循環研究教育拠点形成プログラム〈同・日中韓フォーサイト事業〉を実施してきました。これらの事業を通じた交流と研究教育活動は,本拠点メンバーに新たな視点と広い視野をもたらしたものと思われます。

本拠点形成計画は事業としては平成21年3月で一段落つきますが,今後も「衛星生態学拠点」として山岳域の森林生態系を研究の主対象として,プロセス研究・衛星観測・モデルシミュレーションの三位一体の研究教育と人材育成に努めます。

[新拠点リーダー挨拶 2007.10]


新拠点リーダー : 流域圏科学研究センター 教授 村岡 裕由

平成16年度に採択された本COEの活動は丸3年を経過しました。この間は小泉博教授をリーダーとして,生態学的調査,衛星リモートセンシング観測,フラックス観測とモデリングの融合により,山岳地帯の生態系構造・機能の研究と,それを通じた大学院生の教育および若手研究者の養成を推進してきました。本COE発足前からすでに「高山サイト」では岐阜大学や産業技術総合研究所の研究者や大学院生を中心としながら,いくつもの大学や研究所のメンバーが共同研究と教育活動を進めていましたが,本COE発足により,高山サイトを研究教育拠点とした研究ネットワークは,さらに成長していると思います。これも高山サイトでの研究活動に関わる多くのメンバーの活躍と,本COEの活動を支えて下さっている多くの方々のおかげと感謝しております。

これまでに本COEを牽引してきた小泉リーダーが,平成19年9月21日付にて早稲田大学に転任なさいました。それに伴い,私が拠点リーダーを引き継ぐことになりました。まだ大学教員としては経験が少なく,ましてやプロジェクトリーダーとしての経験もありませんが,これまでの勢いを保ち,また生態系研究教育拠点としての方向性を見据えながら,メンバーとともに推進していきたいと考えております。今後も「衛星生態学創生拠点」は研究教育拠点としての成長を続ける所存ですので,お力添えいただきますようお願い致します。

本COE発足から3年を経過して,「分野融合」がだいぶ具体的な成果として現れてきたように感じられます。研究論文としての成果発表はこれからの活動を待ちますが,「生態系の構造と機能の時空間分布解析」を軸として,若手研究者を中心に,互いの研究分野の学問的背景やセンスの理解が進み,互いの分野の視点で研究対象を捉え,解析しようという意識が強まっています。例えば生態系生態学が扱う物資循環研究は炭素や窒素などの物質の移動を対象とするために微気象学や水文学(ecohydrology)との学問的違いは大きくないように考えられることが多いように思います。しかし生態系生態学では「生き物」を対象の中心に据えているのに対し,微気象学や水文学では物理学的過程を対象の中心に据えています。無論,生態系は生物と物理環境の相互作用系なので,両者の視点をあわせ持つことが不可欠です。生態系を構成する生き物の挙動を測ること,また,物理環境に対する生物の反応を物理化学や生物地球化学的な視点で定量的に記述すること,そしてリモートセンシングデータは生態系を構成する植物の生理生態学的なプロセス(葉の生化学組成,植物群落の3次元構造など)を反映した信号であると理解して解析すること:これらは,プロットスケールから地域スケールでの生態系研究の要であり,基礎的なことではありますが,多くの現場ではまだ真の融合 −データの統合的解析に留まらず研究の視点やセンスを共有すること− に向けた取り組みが必要だろうと思われます。今後,本COEでの活動を通じて,若手研究者を中心として分野融合を推進しながらシニア研究者もあらためて柔軟な視点を得て研究教育を進めること,そして生態系研究の今後の流れに何かしらの貢献をしていくことが,革新的学術分野である「衛星生態学」の創生拠点に求められることであり,すでに生態系炭素循環研究のスーパーサイトとなっている「高山サイト」を持つ当拠点の役割であろうと考えています。

[拠点リーダー挨拶]


元拠点リーダー : 流域圏科学研究センター (2007年9月21日付けにて早稲田大学 教育・総合学術院へ転出) 小泉 博

岐阜大学流域圏科学研究センターを中心とする「衛星生態学創生拠点」というタイトルの拠点形成計画が平成16年度の21世紀COEプログラムに採択されました。このプログラムでは、生態プロセス研究とリモートセンシング解析の融合・統合を図り、その結果を基に気象観測・モデリング解析を加え地域スケールの環境問題を個々に捉えながら、各を再結合することにより地球スケールの環境問題へと包括的に還元する総合的・実践的な科学、「衛星生態学」の創生を目指しています。これにより、異質な機能と時空間スケールをもつ系が連続して分布するような流域圏や地域生態系など、これまで解析が困難であった複合生態系を統一的に理解することを可能にします。

これまでの環境研究では、人間が生態系の中に入り込み、植物の分布やバイオマス量、樹木の成長などをいくつかの地点で調べるような「生態プロセス研究」が中心でした。一方、この30年程の間に、人工衛星に搭載されたセンサーによって自然環境変化や森林・緑地都市域の分布などを調べる「リモートセンシング観測」の技術が発達してきました。近年、これらの研究手法の進化はめざましく、生態プロセス研究に対応する植物の活動と気象条件との密接な関係や森林全体での光合成量・植物生産量が調べられるようになりました。また人工衛星センサーは空間分解能や波長分解能などが飛躍的に進化し、地域環境に含まれる様々なタイプの生態系(森林、農耕地、都市域、河川など)の分布と時間的な変化を詳細に観測できるようになりました。加えて、気象モデルは、生態系や地形などの特徴と気象現象の関係を解り易く説明できるほどに進化しています。このような各研究分野の高度な進化が、新しい学問分野である「衛星生態学」を築く機会をもたらしました。即ち、生態プロセス研究とリモートセンシング解析との融合、統合を図り、その結果を基に気象観測・モデリング解析を加え、市民生活に直結する地域スケールの環境問題を包括的にとらえる総合的・実践的な科学、「衛星生態学」の創生を目指す機が熟したわけです。

このような衛星生態学は既存の研究分野の中間、又は境界領域にある新しい研究分野です。本プログラム拠点では新分野を拓き発展させるため、(1) 多くの他の分野の研究者との交流を積極的に進めます。(2) 海外の環境研究分野の研究者との交流を深めます。(3) 新分野を発展させるための若い研究者および技術者の養成をします。(4) 開放された大学拠点として一般の人々の疑問、質問、要請に対して対話を進めます。(5) 拠点のある地域特有の問題点に対して、出来る限り研究課題に組み込み、解決するよう努力いたします。従いまして、当ホームページへアクセスされる皆様より忌憚なきご意見を頂き、共に新分野が日常生活に有効に生きるよう願っております。

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