プログラムについて : 5年後に期待される成果

[5年後に期待される研究・教育成果]
(1) これまでのリモートセンシング解析における生態学的・気象学的情報の不確実性、生態プロセス研究における時間的・空間的評価範囲の限界など、各分野が有している特徴や問題点、分野の壁を認識し解決することにより各研究手法の科学的適用範囲や信頼性の向上が図られることで、「衛星生態学」が確立されます。本拠点では、地域生態系での生物−環境−人間活動の関係の実態の一端が解明されます。

(2) 衛星センサーは年々進化し、5年後には今よりも更に高分解能で全天候型センサーを搭載した未来型衛星が稼動しています。それまでに衛星生態学としての研究・教育システムが確立されており、かつ、上述のように生態系の分布と機能との関係が明らかにされていれば、分解能の進化を即時に広域研究に取り入れることができます。それは将来の自然科学の主軸の一つとなり、一生態系から国内地域、アジア、さらには地球レベルの広域生態系の機能解明や現状評価、将来予測を可能にします。

(3) 衛星生態学手法が確立され、その研究成果を一般に公開すれば、地域の環境問題を地域住民がより身近に考え、解決する気運が高まります。大学での講義や実習でも、画像解析と生態研究が一体化し、学生にとっての理解が深まりやすくなります。現在は細分化された学問体系の中での専門家養成が主流となっていますが、本拠点では自らの専門分野に加えて関連分野の知識・技術・理念を包括的に身に付けることにより真に学際的な研究者が輩出されます。これにより、複雑化した生態学的・地域科学的問題への統合的な取り組みが可能となります。

[期待される成果と社会的意義]
地球温暖化や環境汚染など、人間活動が原因となる地域・地球レベルでの環境問題に関する現状評価や将来予測は、環境保全策の決定のために重要な影響力を持ちます。多くの関連プロジェクト研究では、生態プロセス分野はある生態系の一部分やその周囲を対象とした比較的狭い範囲での詳細なメカニズムを追及し、リモートセンシング分野は衛星画像等により広域での生態系やその機能の分布の把握を目指し、気象モデリングは両者が個別に提供する情報を利用した将来予測を目指しています。現在までのところ、欧米を中心に地域・地球スケールでの炭素や窒素の物質循環メカニズムとその空間分布、さらには環境変動の影響予測が発表されてはいますが、それぞれの研究分野が共通の地域や時期を対象に評価してもその結果は非常に大きく乖離しています。この原因としては各分野が持つ特徴(取り扱う事象、スケールなど)を、互いに十分に認識していないために根拠の不確かな仮定に基づいた解析を進めていること、研究対象地域に含まれる単位生態系(衛星画像では1点あるいは点の小集合となる)間の関係が明らかにされていないため大気や河川、海洋によって連続している地域・地球レベルの生態現象が十分に把握されていないことなどが挙げられます。研究成果が有する社会的責任の重要性を考慮すると、その信頼性の向上は関連研究分野として、また科学界全体としても危急の課題であります。本問題解決と、より精度の高い評価手法の確立のためには、目標と理念を共有し、かつ互いの手法の特性を十分に理解することにより、互いに利用可能なデータの取得あるいは手法の開発を心がけるなどの協力体制を築くことが必要です。本拠点が確立する衛星生態学がその先駆けとなります。

Page Top