計画の概要は下記の通りです。
(1) 本拠点では、流域圏を構成する生態系(森林、草地、河川、農耕地、都市地域)を対象として研究・教育活動を展開していきます。主要な調査対象は岐阜県山間部から平野部(標高約2000m−0m)を中心とした本州中部地方、内モンゴルの放牧草原、インドネシアの水田地帯などです。岐阜県を中心とする地域を研究重点サイトとし、流域圏に含まれる各種生態系の機能と空間分布およびそれらの変遷、人間活動による土地利用様式の変化が周囲の生態系に及ぼす影響を解析・評価します。内モンゴルの放牧地帯およびインドネシアの水田地帯では、家畜数が草地の維持に及ぼす影響や人口増加に対処するための自然生態系から農耕地への改変が研究・管理方針提言の対象となります。
(2) 生態系はそれを構成する生物(植物、土壌微生物など)、物質(炭素、窒素など)、エネルギーの流れなどの相互関係によって成立します。これらの物質循環、エネルギー流に関わる物理的、生物的課程を「生態プロセス」といい、生態系が地球環境形成に果たす役割や人間活動による影響を解明するためには、生態プロセスとして挙げられる植物や土壌微生物の生理生態学的特性(環境応答)、バイオマス(生物量)の空間分布と季節性、生物活動(光合成、呼吸、成長、土壌への有機物の投入など)が大気や土壌、水系に及ぼす影響を解析することが必要となります。また生態プロセスには人間活動が大気や土壌、河川の質に及ぼす影響(土地利用様式の改変、温室効果ガス等の排出)も含まれます。
(3) 地域スケールにおける生態系機能および人間活動影響の空間分布や時間変動の計測・評価にはリモートセンシング観測が重要なツールとなります。近年の衛星搭載センサーの空間解像度や波長分解能の高度化は著しく、木1本のスケールまでモニタリングできる可能性が出てきました。また、天候条件の影響を受けず、情報量も多い多偏波・多波長マイクロ波衛星の打ち上げも計画されています。これらにより、大気や土壌における物質動態の評価、植生の生理的機能(光合成や蒸散)の評価が可能となります。調査対象とするエリア・時期を生態プロセス研究によって得られる情報と合わせることにより、リモートセンシング観測によって得られる情報を高精度に分析し、より信頼性の高い観測を目指します。
(4) 生態プロセス研究とリモートセンシング研究が観測する空間的・時間的分解能は、それぞれの技術的特徴により一致しないことも多く見られます(前者は数平方cu〜数10u・数秒〜数日のオーダー、後者は数u〜数万ku・1日〜数年)。モデリング解析は、時空間分解能の異なる両者の情報を統合することにより、総合的な評価や将来予測を可能とします。このような時空間的分解能の異なる現象を連結させることはスケーリングと呼ばれ、生態系を構成する生物の生理・生態学的特性、大気・土壌・水圏の化学組成、気象条件などが組み込まれることによって構築されます。