2018年7月豪雨災害における岐阜県美濃地方の被害に関する所見

今回の水害で被害にあわれた方々に心よりお見舞い申し上げます。
コメントを求められることが多いので、現時点での考えをまとめました。(原田)


平成30年7月12日

2018年7月豪雨災害における岐阜県美濃地方の被害に関する所見

岐阜大学流域圏科学研究センター 准教授 原田守啓


【気象条件について】

この地域の豪雨災害は、梅雨前線によるもの、梅雨前線と台風によるもの、台風のみによるものの主に3パターンがあり、今回の豪雨は梅雨前線によるものであった。7月に梅雨前線が降らせた雨としては、非常に強いものであっただけでなく、気象庁の観測所では、岐阜県の広範囲で観測史上最大となり、降水量の記録が更新された地点が多かった。とくに、72時間雨量は多くの地点で過去最高を記録した。

(なぜこれほどまで多量の降水があったのかについては、気象の専門家に確認が必要。)

【洪水被害について】

・長良川中流域

岡山県真備のように、人口が密集する平野部で氾濫が生じた場合、家屋が多数浸水し、多くの方々が亡くなる痛ましい災害となったが、岐阜県の長良川では平野部での氾濫は免れた。しかし、相当量の雨が降ったため、長良川の洪水ピーク時の流量は平成16年台風23号豪雨災害に次ぐものであった。

発災当日の7月8日の現地状況によれば、県が管理する区間のうち、板取川合流点より下流では、堤防天端に数十センチにせまる水位まで水位上昇した痕跡が複数地点で確認されており、この区間では堤防を越水する危険もあったが、越水氾濫はかろうじて回避されていたことが分かった。この区間(県管理区間のうち岐阜市から板取川合流点)は、平成16年台風23号災害後に、床上浸水対策特別緊急事業による河川改修を行った区間であり、この水位低下効果が存分に発揮されたものといえる。一方、改修が十分に進んでいない板取川合流点より上流の地域(例えば美濃市立花)では、平成16年災害と同程度まで水位上昇し、浸水被害が発生していた。

・津保川流域

今回の水害において、岐阜県下で最も浸水被害が大きいと考えられる長良川支流津保川では、山間地の谷底を流れる区間で多くの浸水被害が発生していた。津保川は流域が南北に長く、東西両側の急峻な山地斜面に降った雨が、谷底の津保川に集中する特徴がある。また、数日にわたって降り続いた雨によって山の保水力は飽和しており、3山の降水波形のうちもっとも雨が強く降った第3波(7月7日深夜)では、降った雨が短時間に流出し、谷底に集まってきたものと考えられる。河川の流下能力を超える量の雨水は、川沿いの低い土地まで冠水しながら流れていたものと考えられる。

浸水が大きかった地域の分布には特徴があり、これには津保川流域の地形が深く関係していると考えられた。津保川流域には、河川の両岸に山がせまった狭窄部が見て取れる。河川から氾濫した水が谷底を流れ下る際に、このような狭窄部に阻まれ、その上流の浸水位が上昇していたと考えられる。

このような地形の狭窄部を、地形的ボトルネックと呼ぶこととする。津保川流域には、少なくとも7か所の地形的ボトルネックが確認できた。今後、浸水被害の状況が明らかになるにつれ、地形的ボトルネックの存在がどのように浸水被害に影響していたかも明らかにしていきたい。

【土砂災害被害について】

広島で多数の死者が出た原因は、主に土砂崩れによるものであった。当該地域には、花崗岩が広く分布しており、厚い風化層が発達する花崗岩帯は、山腹が崩壊すると多量の水と土砂と巨石が流れ下り、家屋等に大きな被害をもたらす。最大で累積1000mmを超すような豪雨がふった岐阜県で土砂災害が相対的に少ない理由は以下の2点があると考えられる。岐阜県で降雨が集中した郡上市、下呂市の地域は、堅固な地質である濃飛流紋岩に覆われた地域であったこと、もともと岐阜県の山地部は全国的にみても多雨地域であり、不安定な土砂の堆積が進んでいなかったことが考えられる。

【避難行動について】

今回の豪雨災害で人的被害が抑えられた理由として、住民の安全確保のための自主的な行動や避難が比較的うまく行われた可能性がある。今回の豪雨では、数日降り続いた雨に波があり、3山の雨のうち、第3波で大雨特別警報が発令され、記録的短時間大雨情報が発表された。住民の方々は、おそらく第2波までの大雨でかなり警戒心が高まっていたところの大雨特別警報であったため、身の危険を感じて安全を確保する行動をとられたのではないかと推測している。もしも、第1波からいきなり大雨特別警報クラスの雨が降っていたとしたら、人的被害はもっと拡大していたのではないだろうか。さらに、第3波の大雨が土曜日で、仕事が休みで家にいた人たちも多く、真夜中とはいえまだ起きていた人も多い時間帯であったことから、安全確保のための行動が円滑になされた可能性も指摘できる。もしも、第3波の大雨が、午前2時や3時であったら、避難できない人も多かったのではないだろうか。

また、岐阜県は岐阜大学とともに、清流の国ぎふ防災・減災センターを平成27年に開設し、防災・減災に関わる人材育成を広く行ってきている。延べ数千人の県民が防災に関わる普及啓発を受けてきた。また、気象予警報の示され方、避難情報の示され方や発令のタイミングなどについても、近年改善が進んできた。さらに、気象庁や国土交通省の高空間解像度の雨量レーダーの状況なども、スマートフォンやPCで閲覧可能になっている。このような、住民の防災意識の高まりや、防災情報の充実なども、豪雨災害による人的被害の抑制につながったものと考えられる。

【人的被害が少なかった理由について:まとめ】

岐阜県で人的被害が少なかった理由は、以下のように考えられる。

  • 平野部の人口密集地における河川氾濫を免れたこと。とくに、長良川中流域では、平成16年台風23号洪水以後に実施した河川改修が効果を発揮した。
  • 西日本と比べて土砂災害が相対的に少なく、土砂災害に巻き込まれなかったこと。堅固な地質である濃飛流紋岩に覆われた地域、かつ元来降水量が多い地域で不安定な土砂がそれほど堆積していない状況であったと推測される。
  • 数日間降り続いた雨は3山の洪水をもたらしたが、最も降水量が多かったのは第3波であり、それまでの雨と河川の増水により住民の警戒心が高まっていたこと、土曜日の深夜でまだ人が起きている時間であったことなどにより、住民の安全確保のための行動が促された可能性。
  • 地域における防災減災の普及啓発による防災意識の高まり、防災情報の充実などによって、安全確保のための行動が適切になされた可能性。

以上

“2018年7月豪雨災害における岐阜県美濃地方の被害に関する所見” への1件の返信

  1. ピンバック: テレビ出演・新聞報道(原田准教授) | 流域圏科学研究センター